横浜の猛暑日は「10年で0日」から「10年で67日」へ|子どもの熱中症を、数字と他都市と暑い国の知恵で見直す
横浜の夏は、親世代が子どもだったころとは別物になっている
気象庁の観測地点「横浜」で、猛暑日は1966〜1975年の10年間で合計0日、2016〜2025年の10年間で合計67日だった。同じ地点の日最低気温25℃以上の日数は、年平均8.8日から40.3日へと約4.6倍になっている。だから子どもの熱中症対策は「昔もこうだった」という記憶ではなく、いま出ている数字と、先に暑さを経験した地域や国のやり方から組み立てる必要がある。
猛暑日ゼロの10年と、猛暑日67日の10年を並べてみる
気象庁「過去の気象データ検索」の年ごとの値を、2つの10年間で比べた。
| 項目(観測地点「横浜」) | 1966〜1975年 | 2016〜2025年 |
|---|---|---|
| 日最高気温35℃以上の日数(猛暑日)合計 | 0日 | 67日 |
| 同・年平均 | 0.0日 | 6.7日 |
| 日最高気温30℃以上の日数(真夏日)年平均 | 40.1日 | 62.6日 |
| 日最低気温25℃以上の日数 年平均 | 8.8日 | 40.3日 |
| 年平均気温 | 15.10℃ | 17.15℃ |
直近では2024年の猛暑日22日が最多。2025年は日最低気温25℃以上が64日、年最高気温は8月6日の38.1℃。対照的に1980年は猛暑日0日、真夏日16日、日最低気温25℃以上は3日である。
伸び幅が最も大きいのは猛暑日でも真夏日でもなく、日最低気温25℃以上の日数だ。体を冷ます時間帯そのものが減ったということになる。前夜に体温と睡眠が回復しきらないまま次の日中を迎える積み重ねは、根性論では埋められない。
年平均気温の差は約2.05℃。これをすべて地球温暖化と呼ぶのは正確ではない。気象庁はヒートアイランド現象について「特に日最低気温の上昇率が大きい。これは地球温暖化に加えて、都市化の影響が現れているものと考えられる」と記す。横浜の夏の変化は、地球規模の変化と、この街が舗装され建て込んできたことの合算である。
気温32.3℃のとき、幼児の高さは36℃以上。大人と子どもは別の夏を歩いている
環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022」は、地面に近いほど気温が高くなることを観測で示す。「通常 気温は150cmの高さで測りますが、東京都心で気温が32.3℃だったとき、幼児の身長である50cmの高さでは35℃を超えています。また、さらに地面に近い5cmの高さでは36℃以上でした」との記載である。
天気予報の気温は大人の顔の高さの値だ。ベビーカーの子どもや手をつないで歩く幼児は、公式には32℃の日に35℃以上の空気の中を移動している。
体の側の事情もある。同マニュアルは「思春期前の子どもは汗腺をはじめとした体温調節能力がまだ十分に発達していないために、高齢者と同様に熱中症のリスクが高くなります」と記す。より高温の層を歩きながら、放熱の仕組みは発展途上にある。「子どもは元気だから大丈夫」という前提は、この2点で成り立たない。
なお暑さ指数(WBGT)は、環境省 熱中症予防情報サイトによれば「人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、②日射・輻射など周辺の熱環境、③気温の3つを取り入れた指標」である。気温だけで判断する習慣が危ういのは、指標の作りからしてそうなのだ。
搬送10万510人のうち、少年は8,447人。数字は「誰が危ないか」を語る
消防庁「令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」によれば、令和7年5月から9月の全国の救急搬送人員は100,510人。年齢区分別では高齢者57,433人(57.1%)、成人34,096人(33.9%)、少年8,447人(8.4%)、乳幼児531人(0.5%)、新生児3人(0.0%)だった。神奈川県は4,972人である。
数のうえでの主戦場は高齢者であり、子どもだけを見ていては街全体の被害は減らない。それでも少年区分だけで8,447人が運ばれている。
発生場所別では住居が38,292人(38.1%)で最も多く、教育機関は3,553人(3.5%)だった。屋外の運動場面が想像されがちだが、最大の発生場所は家の中である。冷房のある部屋にいるかどうかが、公衆衛生上は大きな比重を占める。
川崎は24施設をアラート発表時に開く。横浜は開館時間中に休める場所を配る
気候変動適応法に基づく「指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)」という制度がある。環境省 熱中症予防情報サイトによれば「クーリングシェルターを指定済みの市区町村数」は1206市区町村(令和8年5月20日現在)。隣り合う2市を並べると、設計思想の違いが見える。
川崎市は「クーリングシェルターの施設数は、24施設です。(令和8年5月29日時点)」とし、「クーリングシェルターとは、熱中症特別警戒アラート発表時に、一時的に涼しく過ごしていただける場所です」と説明する。最も危険な日に開く枠組みである。
横浜市は「クールシェアスポットを令和8年4月23日(木曜日)から開設します」とし、これを「冷房設備等を有し、開館(営業)時間中に一部をご利用いただける施設等において、椅子やベンチ等の既存設備を活用して」「外出時に一時休憩することができる場所」と定義する。そのうえで「令和8年度は、クールシェアスポットを指定暑熱避難施設に位置付け」、「改正気候変動適応法第21条に基づき、横浜市との間で協定締結します」としている。
川崎市の枠組みはアラートが出た日に開く。横浜市の枠組みは、アラートの有無にかかわらず開館・営業時間中に立ち寄れることを軸にする。子ども連れには、後者は「特別な日」ではなく毎日の避難先になる。危険な日を待たず、移動経路のどこに座れる涼しい場所があるかを先に把握しておきたい。
普通教室99.6%、体育館18.9%。冷房整備は同じ速さでは進んでいない
文部科学省の調査によれば、公立小中学校の空調(冷房)設備設置率は「普通教室で 99.6%(前回99.1%、0.5%増)、特別教室で 72.6%(前回 66.9%、5.7%増)」(令和8年5月1日現在)である。教室にかぎれば、冷房はほぼ行き渡った。
一方、体育館は別の調査で扱われる。文部科学省「公立学校の体育館等の空調(冷房)設備設置状況について」(令和7年5月1日現在)では、小中学校の体育館等の設置率は18.9%、うち避難所指定校分は23.7%だった。全校集会、体育、部活動、災害時の避難所という、体温が上がりやすく人が密集する場所が、教室の整備状況から大きく離れている。学校の暑さ対策は「エアコンがあるか」ではなく「どの場所にあるか」で捉えたい。
12時30分から15時は働かない ― UAEとスペインが制度として決めたこと
日本より長く暑さと付き合ってきた地域は、暑さを個人の我慢に任せず、時間割そのものを動かしている。アラブ首長国連邦のMinistry of Human Resources and Emiratisationは「The Midday Break」として、「15 June - 15 September of every year」の期間、「12:30 PM - 3:00 PM」に「All types of work that are carried out under the sun and in open places」を停止させる。暑さのピークを労働時間から丸ごと外す発想である。
スペイン保健省(Ministerio de Sanidad)は「Plan Nacional de Acciones Preventivas contra los Efectos del Exceso de Temperaturas sobre la Salud」を5月15日から9月30日まで運用し、10項目の推奨事項を示す。その一つは「evitar practicar deportes al aire libre en las horas centrales del día」(日中の中心的な時間帯に屋外での運動を避ける)。注意すべき対象には「bebes, menores」(乳児、子ども)が明示されている。シエスタと呼ばれてきた昼の休みは、いまや公衆衛生計画と労働規制の形で更新されている。横浜でも、公園遊びや送り迎え、習い事の移動を「昼を外す」方向に組み替えることが、これらの地域が選んだ答えに最も近い。
夜に開け、昼に閉める。WHOが示す家の冷やし方の順番
自宅が最大の発生場所である以上、家の扱い方は対策の中心にある。WHOのファクトシート「Heat and health」(13 July 2026更新)は次のように記す。
- 「During the day when outdoor temperatures are higher than indoors, close windows and cover them with blinds or shutters to block direct sunlight.」
- 「Use the night air to cool down your home by opening windows after dark when the outdoor temperature is lower than the indoor temperature.」
- 「Never leave children or animals in parked vehicles for any amount of time, as temperatures can quickly become dangerously high.」
昼は閉めて日射を遮り、外気が下がってから開ける。順番が逆の家は多い。ただし横浜では日最低気温25℃以上の日が年平均40.3日ある。夜の外気で冷やす手が使えない夜がひと夏に何十日もあり、その日は冷房を使う以外の選択肢が乏しい。暑い国の知恵は、横浜の夜の数字に合わせて使い分けたい。
体調が悪くなったときの対応は、環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022」および環境省 熱中症予防情報サイトの記載に沿って判断してほしい。本記事は診断や治療を示すものではない。
出典
- 気象庁「過去の気象データ検索(横浜 年ごとの値)」 https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/annually_s.php?prec_no=46&block_no=47670&year=&month=&day=&view=a2 (一次情報。観測地点「横浜」の1966〜1975年および2016〜2025年の猛暑日・真夏日・日最低気温25℃以上の日数・年平均気温の根拠)
- 気象庁「ヒートアイランド現象ポータルサイト」 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/index_himr.html (一次情報。都市化と地球温暖化の寄与、日最低気温の上昇率に関する記述の根拠)
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022(高齢者と子どもの注意事項)」 https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_3-2.pdf (一次情報。気温32.3℃時の50cm・5cm高さの気温、子どもの汗腺と体温調節能力に関する記述の根拠)
- 環境省「熱中症予防情報サイト(暑さ指数(WBGT)とは)」 https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php (一次情報。暑さ指数が湿度・日射輻射・気温の3要素からなることの根拠)
- 環境省 熱中症予防情報サイト「指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)」 https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_shelter.php (一次情報。指定済み市区町村数1206/1371、令和8年5月20日現在の根拠)
- 消防庁「令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」 https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r7/heatstroke_nenpou_r7.pdf (一次情報。全国搬送人員100,510人、年齢区分別・発生場所別、神奈川県4,972人の根拠)
- 文部科学省「公立学校施設における空調(冷房)設備の設置状況について(令和8年5月1日現在)」 https://www.mext.go.jp/content/20260730-mxt_sisetujo-000051314_01.pdf (一次情報。普通教室99.6%・特別教室72.6%の根拠)
- 文部科学省「公立学校の体育館等の空調(冷房)設備設置状況について(令和7年5月1日現在)」 https://www.mext.go.jp/content/20250623-met_sisetujo-000013462_001.pdf (一次情報。小中学校の体育館等18.9%、避難所指定校分23.7%の根拠)
- 横浜市「暑さ対策・クールシェアスポット、熱中症特別警戒アラート等について」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/ondanka/etc/atusa202405.html (一次情報。クールシェアスポットの定義、令和8年4月23日開設、指定暑熱避難施設への位置付けと改正気候変動適応法第21条の根拠)
- 川崎市「川崎市のクーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」 https://www.city.kawasaki.jp/300/page/0000186649.html (一次情報。24施設・令和8年5月29日時点、熱中症特別警戒アラート発表時に開設の根拠)
- World Health Organization「Heat and health」 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/climate-change-heat-and-health (一次情報。窓の開閉による住居の冷やし方、車内放置に関する推奨の根拠)
- UAE Ministry of Human Resources and Emiratisation「Midday Break」 https://www.mohre.gov.ae/en/media-center/awareness-and-guidance/midday-break.aspx (一次情報。6月15日〜9月15日、12:30〜15:00の屋外作業停止の根拠)
- Ministerio de Sanidad(スペイン保健省)「Plan Nacional de Acciones Preventivas contra los Efectos del Exceso de Temperaturas sobre la Salud」 https://www.sanidad.gob.es/gabinete/notasPrensa.do?id=6111 (一次情報。5月15日〜9月30日の運用期間、日中の屋外運動回避と乳幼児・子どもへの注意の根拠)
情報確認日 2026-08-01。本記事は公的機関・国際機関の公表資料に基づく一般的な情報であり、診断・治療を示すものではない。体調の異変や受診の判断については、環境省および各機関の公表資料と、かかりつけの医療機関の案内に従ってほしい。制度・施設の運用は変更されることがあるため、利用前に各自治体の最新情報を確認してほしい。