病床は全国最少の789.6床、救命救急センターは9病院。数字で見る横浜の医療体制
病院病床は人口10万対789.6床。神奈川県は全国で最も少ない
横浜市を含む神奈川県の人口10万対病院病床数は、47都道府県のうち最も少ない。一方、横浜市内には三次救急を担う救命救急センターが9病院指定されている。救急搬送に要する時間が10年前より延びているのは全国共通の現象であり、数字は「手厚い」「手薄」のどちらか一方だけを指してはいない。
病院収容まで44.6分。10年で5.2分延びた全国平均が示すもの
総務省消防庁「救急・救助の現況」は二つの指標を公表する。「現場到着所要時間」は119番の入電から現場に到着するまで、「病院収容所要時間」は入電から医師への引継ぎまでに要した時間である。いずれも全国平均であり、県別・市別の平均ではない。推移は次のとおりである。
- 平成26年中 — 現場到着 8.6分/病院収容 39.4分
- 令和元年中 — 現場到着 8.7分/病院収容 39.5分
- 令和4年中 — 現場到着 10.3分/病院収容 47.2分
- 令和5年中 — 現場到着 10.0分/病院収容 45.6分
- 令和6年中 — 現場到着 9.8分/病院収容 44.6分
平成26年中と令和6年中を比べると、現場到着は1.2分、病院収容は5.2分延びている。ただし延伸が一気に進んだのは令和元年中から令和4年中にかけてであり、令和4年中の47.2分をピークに2年連続で短縮している。「一貫して悪化し続けている」という理解は、この推移と一致しない。
横浜市の救急出場は10年で8万件増。時間延伸の背景にある数
横浜市がオープンデータとして公表している救急統計では、救急出場件数は平成26年の176,119件から令和6年の256,481件へ、搬送人員は153,430人から207,471人へ増えた。10年で出場件数は約8万件の増である。なお消防庁は「救急出動」、横浜市は「救急出場」と表記する。
需要が増えれば、直近の救急隊が別の事案に出ている確率は上がり、より遠い隊が向かう。所要時間の数字は、救急隊や病院の努力の量ではなく、需要と供給が競合した結果として読むほうが実態に近い。
病床数は全国最少の789.6床。少なさがそのまま不足を意味するわけではない
厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」(令和6年10月1日現在)によれば、全国の病院は8,060施設・1,469,845床、人口10万対の病院病床数は1,187.3床である。都道府県別では神奈川県が789.6床で最も少なく、最も多い高知県は2,364.2床。東京都は878.9床、埼玉県は856.3床である。
ここで区別が要る。この789.6床は「病院の病床」のみの数字であり、一般診療所の病床は含まない。同じ調査で一般診療所は105,207施設・72,451床であり、病院病床の約20分の1にとどまる。「病院+診療所」で数えるか「病院のみ」かで水準は変わるため、他の資料と見比べる際は定義の確認が要る。
そして病床の多寡は、そのまま医療の充足を意味しない。同じ調査で病院の平均在院日数は全病床25.6日、一般病床15.5日である。同じ人口を支えるのに、入院期間が長ければ多くの病床が要り、短ければ少なくて済む。
人口10万対223.0人で全国40位。ただし偏在指標では23位
厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」の令和4年(令和4年12月31日現在)の値について、神奈川県は「かながわの医師の状況について」で、全国の人口10万人当たり262.1人に対し県は223.0人、全国40位と説明している(県の資料は「医師・歯科医師・薬剤師調査」と表記)。同じ資料の二次医療圏別では、最も高いのが川崎南部の261.4人、最も低いのが県央の150.3人と、県内でも幅がある。
より新しい令和6年(令和6年12月31日現在)の同統計では、人口10万対の医療施設従事医師数の全国値は267.4で前回比5.3の増加、上位は徳島県345.4・長崎県333.8・京都府333.2、下位は埼玉県189.1・茨城県198.1・千葉県213.3となっている。年次の違う数字を並べても比較にはならないため、同じ年の中で読む必要がある。
順位だけを見ると神奈川県は下位に見える。しかし国が令和6年1月に都道府県に示した「医師偏在指標」では、全国255.6に対し神奈川県は247.5で全国23位である。この指標は、人口10万対医師数が考慮していない要素、すなわち医療需要と将来の人口・人口構成の変化、患者の流出入、へき地等の地理的条件、医師の性別・年齢分布、偏在の種別を織り込んで算出される。単純な人口比では40位、補正すると23位。どちらかが正解なのではなく、二つは別の問いに答えている。
日本の病床は人口千人当たり13.1床。多いのに医師は薄く配置される
厚生労働省が「医療保障制度に関する国際関係資料について」で公表している国際比較(OECD Health Statistics 2019 等より作成、2017年データ、※印は2016年データ)は次のとおりである。
- 人口千人当たり総病床数 — 日本13.1/ドイツ8.0/フランス6.0/米国2.8※/英国2.5
- 人口千人当たり臨床医師数 — ドイツ4.3/フランス3.2/英国2.8/米国2.6/日本2.4※
- 病床百床当たり臨床医師数 — 英国110.8/米国93.5※/ドイツ53.1/フランス52.8/日本18.5※
- 平均在院日数 — 日本28.2/フランス9.9※/ドイツ8.9/英国6.9/米国6.1※
日本は病床が突出して多く、人口当たりの医師は比較国のなかで最も少ない。結果として病床百床当たりの医師数は英国の6分の1程度になる。神奈川県の789.6床は国内では最少だが、人口千人当たりに換算すれば約7.9床であり、この比較のドイツとフランスの間に位置する。「国内で最少」と「国際的に少ない」は別の話である。
救命救急センターは9病院。人口約42万人に1カ所が持つ意味
横浜市は救急医療を三段階で説明している。初期救急医療は外来の治療だけで帰宅できる患者、二次救急医療は主に救急車で搬送され入院が必要なけがや病気、三次救急医療は生命に危険のある重篤患者を対象とする。
市内には二次救急拠点病院25病院と小児拠点病院7病院が指定され、24時間365日の二次救急医療が運営支援されている(2026年4月現在)。二次救急拠点病院は診療機能に応じてAとBに区分され、重症度に応じて搬送先を選定する形で病院間の機能分担が図られている。三次救急を担う救命救急センターは9病院で、市はこれを「人口約42万人に1カ所という充実した三次救急医療体制」と説明している。横浜市の人口は令和8年6月1日現在で3,759,615人(令和7年国勢調査速報値を基礎とした推計)である。
この役割分担が機能するかどうかは、患者側がどの入口を選ぶかにも左右される。ただし症状の重さの判断は専門的なものであり、この記事の数字から受診行動の是非を論じることはできない。
必要病床数は72,410床。神奈川は病床を減らす県ではなく増やす県
「地域医療構想」は病床の機能分化と連携を進めるための都道府県の計画で、全国的には過剰な病床を削減する文脈で語られることが多い。だが神奈川県では方向が逆である。県が平成28年10月に策定した「神奈川県地域医療構想」は、病床機能報告制度で報告された病床数の計60,240床に対し、2025年の必要病床数を計72,410床と推計している。構想区域には横浜構想区域が置かれている。人口減少が先行する地域と、高齢者の絶対数がこれから増える都市部とでは、同じ制度が正反対の課題を生む。
国は現在、「2040年に向けた地域医療構想」への移行を進めている。病床機能の区分は高度急性期・急性期・包括期・慢性期とされ、構想区域は人口20万人以上を基本として見直される。加えて、急性期拠点機能、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、専門等機能を確保する仕組みが新たに導入される。病床の数だけでなく、外来・在宅・介護との連携を含めて設計し直す枠組みである。
平均在院日数25.6日。数字の比較には3つの落とし穴がある
ここまでの数字を読むうえで、少なくとも三つの留保がある。
第一に、人口構成の違いである。人口10万対の指標は年齢構成を調整していない。高齢化率の高い県は医療需要そのものが大きく、同じ「人口10万対」でも意味が異なる。医師偏在指標が神奈川県を40位から23位に押し上げるのは、この調整を行っているからである。
第二に、通院の越境である。神奈川県は東京都に隣接し、県境をまたいだ受診が日常的に起こる。居住地の人口で割った指標は、この流出入を反映しない。医師偏在指標が「患者の流出入等」を算定要素に含めているのは、この問題への対処である。
第三に、指標が測っていないものである。病床数も医師数も所要時間も量と時間の指標であって、診療の内容や結果を測るものではない。平均在院日数25.6日という数字も、短ければ効率的とも長ければ手厚いとも言い切れない。本記事は横浜や神奈川の医療体制の優劣を判断せず、公表された数字が何を示し何を示していないかを整理したにとどまる。
出典
- 総務省消防庁「令和7年版 救急・救助の現況」Ⅰ救急編 https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/items/kkkg_r07_01_kyukyu.pdf (一次情報。平成26年中・令和6年中の現場到着所要時間・病院収容所要時間、用語の定義)
- 総務省消防庁 報道資料「『令和7年版 救急・救助の現況』の公表」(令和8年1月20日) https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/kyuuki_20260116.pdf (一次情報。令和6年中の各所要時間と令和元年比)
- 総務省消防庁 報道資料「『令和6年版 救急・救助の現況』の公表」(令和7年1月24日) https://www.soumu.go.jp/main_content/000991299.pdf (一次情報。令和5年中・令和4年中の各所要時間)
- 総務省消防庁 報道資料「『令和2年版 救急・救助の現況』の公表」 https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/c941509de3f85432709ea0d63bf23744756cd4a5.pdf (一次情報。令和元年中の各所要時間)
- 総務省消防庁「平成27年度 救急業務のあり方に関する検討会 報告書」 https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento169_15_houkokusyo.pdf (一次情報。平成26年中の所要時間の裏取り)
- 横浜市「救急出場件数と搬送人員」(オープンデータ) https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/tokei-chosa/portal/opendata/kyukyu.html (一次情報。横浜市の救急出場件数・搬送人員の推移)
- 厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/24/ (一次情報。病院数・病床数・人口10万対病院病床数・平均在院日数)
- 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/24/index.html (一次情報。令和6年の人口10万対医療施設従事医師数の全国値と上位・下位県)
- 神奈川県「かながわの医師の状況について」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/t3u/kanagawanoishinojyoukyou.html (一次情報。令和4年の県の人口10万対医師数・全国順位、医師偏在指標、二次医療圏別)
- 厚生労働省医政局「医師偏在対策について」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000654889.pdf (一次情報。医師偏在指標の算定要素と、人口10万対医師数の限界)
- 厚生労働省「医療保障制度に関する国際関係資料について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken11/index.html (一次情報。OECD Health Statistics 2019 等に基づく国際比較表の掲載元)
- 神奈川県「神奈川県地域医療構想」リーフレット https://www.pref.kanagawa.jp/documents/36261/874799.pdf (一次情報。報告病床数と2025年の必要病床数)
- 厚生労働省「2040年に向けた地域医療構想」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850_00014.html (一次情報。病床機能区分、構想区域、確保すべき医療機能)
- 横浜市「横浜市の救急医療について」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/iryo/kyukyu/iryo/kyukyu.html (一次情報。初期・二次・三次救急の役割分担、二次救急拠点病院・救命救急センターの数)
- 横浜市「推計人口・世帯数【最新】」 https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/tokei-chosa/portal/jinko/maitsuki/saishin-news.html (一次情報。横浜市の人口)
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